著者のコラム一覧
大高宏雄映画ジャーナリスト

1954年浜松市生まれ。明治大学文学部仏文科卒業後、(株)文化通信社に入社。同社特別編集委員、映画ジャーナリストとして、現在に至る。1992年からは独立系を中心とした邦画を賞揚する日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を発足し、主宰する。著書は「昭和の女優 官能・エロ映画の時代」(鹿砦社)など。

映画史に名を刻む…思想でなく役柄で生きた俳優・津川雅彦

公開日: 更新日:

 日活から松竹に移った時期の代表作が、先の松竹ヌーベルバーグの一連の作品だ。太陽族映画の屈折した甘ったれ坊主が政治を語り、社会の底辺をさすらうニヒルな学生に転じていた。

「ろくでなし」では、金持ち学生(川津祐介)の配下となりながらも絶えず獲物を狙う動物のように牙を研いでいた。年上の女性(高千穂ひづる)とは、色悪のような風情でぶっきらぼうに付き合ったりする。筆者はそんな女との冷めた接し方に憧れたものだ。整った横顔に、太陽族映画とは一線を画す反ブルジョア、反体制の刃がギラッと光る。このスタイルが何ともいえず格好良かった。

 その後では、60年代から70年代の東映ヤクザ映画、80年代以降の伊丹十三監督作品などが、彼にとっての俳優の主戦場になるだろうか。熟達の演技力が加味され、安定した俳優の道を歩み始めた。風貌も若いときのようなとがった二枚目から、中年男の渋みをまぶしつつ凄みも増したものに転じていった。その過程で出合った作品が、伊藤俊也監督の「プライド 運命の瞬間(とき)」(98年)の東条英機の役であったと思う。

「プライド――」を見たとき、津川雅彦に本物の東条が乗り移ったかと感じて怖気を震った。表面上はともかく、津川さんは「思想は関係ない。右も左もない」という考えの持ち主だったと関係者から聞いているが、東条の役では、自身でセリフを書き加えるほど熱を入れたのは事実である。作品的な是非はともかく、本作の津川さんには若いときの太陽族映画や松竹ヌーベルバーグ時代とは違って、どこか高い地平へ飛び立ったかのような演技のはじけ方があったように思うのだ。このはじけ方に、ひょっとしたら演技者の未踏の領域、尽きぬ魅力の源泉があるのかもしれない。俳優は思想では生きない。役柄で生きると、いってしまいたい。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  2. 2

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  3. 3

    萩原健一(6)美人で細身、しかもボイン…いしだあゆみにはショーケンが好む必須条件が揃っていた

  4. 4

    中居正広氏&フジテレビ問題で残された疑問…文春記事に登場する「別の男性タレント」は誰なのか?

  5. 5

    人事局付に異動して2週間…中居正広問題の“キーマン”フジテレビ元編成幹部A氏は今どこで何を?

  1. 6

    《もう一度警察に行くしかないのか》若林志穂さん怒り収まらず長渕剛に宣戦布告も識者は“時間の壁”を指摘

  2. 7

    ビートたけし「俺なんか悪いことばっかりしたけど…」 松本人志&中居正広に語っていた自身の“引き際”

  3. 8

    元フジテレビ長谷川豊アナが“おすぎ上納”告白で実名…佐々木恭子アナは災難か自業自得か

  4. 9

    「まつもtoなかい」長渕剛"神回"が話題に…「仕事と愛どっち取る?」の恋愛トーク!

  5. 10

    別居から4年…宮沢りえが離婚発表「新たな気持ちで前進」

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  2. 2

    人事局付に異動して2週間…中居正広問題の“キーマン”フジテレビ元編成幹部A氏は今どこで何を?

  3. 3

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  4. 4

    テレビでは流れないが…埼玉県八潮市陥没事故 74歳ドライバーの日常と素顔と家庭

  5. 5

    菊乃井・村田吉弘さんが日本食の高級化に苦言…「予約が取れない店がもてはやされるのはおかしい」

  1. 6

    フジテレビを襲う「女子アナ大流出」の危機…年収減やイメージ悪化でせっせとフリー転身画策

  2. 7

    TV復帰がなくなった松本人志 “出演休止中”番組の運命は…終了しそうなのは3つか?

  3. 8

    "日枝案件"木村拓哉主演「教場 劇場版」どうなる? 演者もロケ地も難航中でも"鶴の一声"でGo!

  4. 9

    【埼玉・八潮市道路陥没「2次被害」現場ルポ】発生2週間、水は濁り死んだ魚が…下水放流地で見た河川の異変

  5. 10

    ロッテ吉井監督が佐々木朗希、ローテ再編構想を語る「今となっては彼に思うところはないけども…」