ピエール瀧様には「ビューティフル・ボーイ」を観てほしい
音楽ライターのデヴィッド(スティーブ・カレル)がドラッグ依存に陥った息子のニック(ティモシー・シャラメ)を救おうとする実話を基に、息子が回復の道をたどる物語です。
この作品の特徴は、父と息子が実際に出版した2冊の回顧録を基に双方の目線で描かれているところにあります。こういった自伝的物語は一方の視点でドラマチックに描きがちですが、双方の受け取り方が淡々と描かれています。父親は愛情のまま息子に金を与えてしまい、薬物中毒になってから息子を突き放し……息子は孤独を、父親はこれまでの育て方に罪の意識と、今、何をすべきか迷う。また、薬物を想起させる、直接的なドラッグ使用シーンが少ないところなど中毒患者にも配慮されています。
薬物依存症を乗り越える最大の抑止力は“大切な人”の存在。物語は何度も過ちを繰り返しながら、物書きとして独り立ちし、回復していくニックの姿が描かれています。劇中「世界中の言葉を全て集めても、この愛は伝えきれない」というセリフが出てきます。父親が愛する子供を思う気持ちを表したこの言葉は、信念を貫けるのは愛する者や愛してくれる人たちを思えばこそだと示唆します。ダークサイドに落ちそうになった時、たとえ大人であろうともひとりで抱え込もうとせず、家族や支援者、そして相談窓口でカミングアウトするのが幸福な日常への近道だというメッセージが込められています。
▽1973年、静岡県生まれ。映画パーソナリティー&映画心理カウンセラー。有働由美子、マツコ・デラックスと同じナチュラルエイトに所属。ハリウッドのエピソードから心理まで多角的に作品を網羅。