親父に渡された本が立川談志師匠の「現代落語論」でした
談志の落語を聴いた感想はどうだったのか。
「師匠は喉の調子が悪いみたいで、噺の途中で切って解説を始めたんです。16歳のガキが一生懸命頭の中で描いた絵が壊れちゃって、続きが始まっても噺に集中できなかった。とても付いていけないというのが正直な感想でした」
噺の途中で解説するのは、談志がたまにやることだが、初めて聴く高校生が付いていけるはずがない。
「親父に『どうだった』と聞かれたので、『あの人は口だけだ。本だけだ』って言ったら怒り狂ってボコボコにされました。『二度と落語家になりたいなんて言ったら、ただじゃおかないからな』と脅された。それからしばらく顔を合わせるのを避けてて、親父もあまり家にいない人でしたから。3週間くらいたった時、母から電話があって、『お父さんが倒れた』と言うんです」
病名は脳幹出血。一命は取り留めたものの、後遺症には言語障害もあるので、落語家にとってはやっかいな病気だ。しかも痴楽には糖尿病の持病があった。
「意識が戻るまで1カ月近くかかって、しゃべるのも、ろれつが回らない。病気で気弱になっていたのか、『落語をやりたいならやれ』と許しが出ました。『平治に話しておいたから』と、すでに師匠を決めてた。その時、『自分で師匠を選べないのか』と思ったのも事実です」