「石倉さん、陛下がお泊まりになった部屋はどうでしたか」
三郎と高倉健との縁はなおも続く。
健さんの遺作となった「あなたへ」(2012年)には、志願して出演したのだ。
「降旗康男監督に直訴して出してもらった。ロケ先の長崎県平戸市に着いたら、健さんの指示だって、天皇陛下が泊まった旅館の部屋に通されたのよ。俺なんかが泊まる部屋じゃないでしょ。『健さんは?』って聞いたら『別館に泊まってます』という。翌朝、撮影現場で健さんに、『お久しぶりです』と挨拶したら、ニヤニヤしながら、『石倉さん、陛下がお泊まりになった部屋はどうでしたか』って聞くわけよ。こっちが大恐縮するのを見て笑ってる。からかってるんだ。健さんはそういう、ちゃめっ気がある方でしたね」
「あなたへ」にはビートたけしも出演していた。
「俺はたけちゃんの映画にも出てる。最初はツービート時代に、たけちゃんが初主演した『哀しい気分でジョーク』(1985年)。主人公の芸人のマネジャー役で、せりふも多く、出演者のクレジットに名前が出るのは初めてだった。東映時代は一度も名前が出なかったからうれしくてね。撮影の前夜、つい飲み過ぎて、酔ったあげくに喧嘩をしちゃった。相手は2人で、1人はやっつけたけど、もう1人に後ろからシャッターを閉める鉄の棒で肩を殴られて骨折ですよ。医者の言うことを聞かずにギプスもつけないで撮影に臨んだら、たけちゃんはそれを知って、撮影中にわざと俺の肩を叩くんだ。あれには参った。シャレがきついよ。その骨折、半年で自然治癒したんだから俺は丈夫なんだね」