神楽坂浮子は“銀座の女”をテーマにして作詞家デビューした
そこで書き上げたのが「銀座化粧」(作曲・猪俣公章)である。
結果的にいうと、この曲はさほどヒットせず、神楽坂浮子のもくろみは奏功しなかったが、日本の歌謡界にとっては大きな意味を持つことになる。洋子に作詞の才能を見いだした音楽ディレクターが、立て続けに作詞を発注したからだ。「銀座しぐれ」(歌・松尾和子)、「あなたのうわさ」(歌・和田弘とマヒナ・スターズ)、「酒場の花」(歌・藤本二三代)と、連続して“夜の銀座”をテーマにした楽曲を手掛けた。
この時代「マルチ」という言葉が流行。「なんでもこなす」という意味で、永六輔、青島幸男、前田武彦、大橋巨泉、野末陳平ら放送作家をベースとした彼らは、作詞、タレント、評論、小説、映画監督と、他分野を股にかけ「マルチタレント」と呼ばれた。天才子役から歌手、女優、作詞、声優とあらゆる分野で活躍した中山千夏は、女性のその代表的存在だった。
洋子にも「作詞もこなすマルチな銀座のマダム」という称号が与えられた。これまでは重荷でしかなかった東映ニューフェイスの過去も、華々しい履歴に昇華した。
そんな多忙な洋子に、次はこんな話が舞い込んできた。
「ママ、今度はテレビ番組の司会をしてみない?」
(つづく)