五木ひろしの光と影<13>山口洋子からの初電話「三谷謙君って知ってる?」
「洋子ちゃんと安藤(昇)さんは“愛人”とか、そういう感じじゃないの。もっと軽い。カノジョとかガールフレンドみたいな感じ。2人とも最先端を走ってた人だったから、そういう重いイメージじゃなくて」
これらの平尾昌晃の生前の証言を改めて聞くと、この時代の山口洋子は、以前この連載で書きつづっていた元ミス・ユニバース日本代表から「姫」のホステスとなった飯野矢住代とキャラクターが非常に近い気がしないでもない。その山口洋子から電話がかかってきたのだ。当然初めての電話である。
「三谷謙君って知ってる?」と洋子が切り出すと「知ってるよ。『全日本歌謡選手権』の人でしょ」と返した。すると洋子は、すかさずこう言った。
「ねえ、彼の曲を一緒に作らない?」
いきなりそう言われて、平尾はすぐに返答できなかった。当然である。確かに三谷謙が抜群にうまいことは、「全日本歌謡選手権」の収録に立ち会った以上、平尾昌晃も認識していたし、彼の実力ならば10週勝ち抜いて再デビューすべきことも、第一線で活躍できる可能性を持っていることも理解できた。しかし、実際、10週勝ち抜けるかどうかは、また別の問題となる。そうでなくても、審査員のお歴々が彼に辛い点をつけて落としてしまいかねない。