<111>巡査部長は「全然です」と…早貴被告の新宿のマンションの捜索は収穫なし
カメラマンは目の前のビルに反射するような大きな笑い声を出した。
案の定というか計算通りというか、ネオンの光が強くなった頃に7人ほどの男女の私服警官たちが段ボールを手にしてゾロゾロとエレベーターから姿を現した。野崎幸助さん宅の家宅捜索で名刺交換をした巡査部長と目が合ったので、脇道に連れ出した。
「お疲れさまです」
「いつ戻ってきたんです?」
「午後に新幹線で戻ってきました。で、なにか見つかりましたか?」
「全然です」
「明日は大下さんの六本木のマンションでしょ。江戸川の方はいつの予定ですか?」
「江戸川?」
巡査部長が眉をひそめた。
「ほう? それほど隠したいことなんですか? さっきボクは行ってきましたけれど、何にも成果はないかもしれませんよ」
「……」
江戸川区には早貴被告を野崎幸助さんに紹介した中年男性の自宅と自動車工場がある。本人は九州でも仕事をしているので不在だったが、両親や近所に聞き込みをすると反社とは関係がなさそうで、事件に関係していないだろうとの感触を持った。