著者のコラム一覧
山田勝仁演劇ジャーナリスト

「文、分、異聞」63年の文学座の“黒歴史”を直視した意欲作に物足りなかったこと

公開日: 更新日:

 舞台は、当時の若い研究生たちが、劇団の総会を再現するという意表を突いた幕開け芝居で始まる。

 やがてそれがテレビドラマの撮影のため幹事会に参加できなかった研究生1期のマユミ(小川真由美がモデル)のために総会の模様を再現したのだと分かる。劇団の下っ端だった彼らは、自分たちも上演に関する総意を決めるべきだとして、話し合いを始めるのだが……。

 当時の研究生たちは実在の俳優を想起させる名前になっている。

 ダイゴは「喜びの琴」の主演に抜擢された草野大悟、シンは岸田森、チホは樹木希林(当時は悠木千帆)、トオルは元文学座代表の江守徹。

 彼らのディスカッションはやがて、「喜びの琴」を通り越して、自分たちの役者としての私生活に重心が移っていく。

 役につけた者、マスコミの仕事で売れた者、座員昇格できるか不安な者……それらの葛藤があらわになっていくのだ。

 よくできた青春群像劇ではあるが、芸術と思想は切っても切れない問題だ。軍拡にかじを切った昨今のキナ臭さは、やがて表現芸術にも及んでくるかもしれない。その時、演劇人はどんな立ち位置をするのか。

「喜びの琴」事件は過去のものではない。今現在の問題であり、当時の全共闘世代の俳優ならば、もっと議論を深めたはず。もう少し、踏み込みが欲しかった。

 鈴木結理、松浦慎太郎、渡邊真砂珠、小谷俊輔ほか。信濃町・文学座アトリエで12月15日まで。 ★★★

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    【独自】フジテレビ“セクハラ横行”のヤバイ実態が社内調査で判明…「性的関係迫る」16%

  2. 2

    萩原健一(6)美人で細身、しかもボイン…いしだあゆみにはショーケンが好む必須条件が揃っていた

  3. 3

    人事局付に異動して2週間…中居正広問題の“キーマン”フジテレビ元編成幹部A氏は今どこで何を?

  4. 4

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  5. 5

    中居正広氏&フジテレビ問題で残された疑問…文春記事に登場する「別の男性タレント」は誰なのか?

  1. 6

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  2. 7

    ビートたけし「俺なんか悪いことばっかりしたけど…」 松本人志&中居正広に語っていた自身の“引き際”

  3. 8

    TV復帰がなくなった松本人志 “出演休止中”番組の運命は…終了しそうなのは3つか?

  4. 9

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  5. 10

    "日枝案件"木村拓哉主演「教場 劇場版」どうなる? 演者もロケ地も難航中でも"鶴の一声"でGo!

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人今季3度目の同一カード3連敗…次第に強まる二岡ヘッドへの風当たり

  2. 2

    大阪・関西万博の前売り券が売れないのも当然か?「個人情報規約」の放置が異常すぎる

  3. 3

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  4. 4

    ヤクルト茂木栄五郎 楽天時代、石井監督に「何で俺を使わないんだ!」と腹が立ったことは?

  5. 5

    バンテリンドームの"ホームランテラス"設置決定! 中日野手以上にスカウト陣が大喜びするワケ

  1. 6

    菜々緒&中村アン“稼ぎ頭”2人の明暗…移籍後に出演の「無能の鷹」「おむすび」で賛否

  2. 7

    巨人「先発6番目」争いが若手5人で熾烈!抜け出すのは恐らく…“魔改造コーチ”も太鼓判

  3. 8

    ソフトバンク城島健司CBO「CBOってどんな仕事?」「コーディネーターってどんな役割?」

  4. 9

    テレビでは流れないが…埼玉県八潮市陥没事故 74歳ドライバーの日常と素顔と家庭

  5. 10

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ