「文、分、異聞」63年の文学座の“黒歴史”を直視した意欲作に物足りなかったこと
舞台は、当時の若い研究生たちが、劇団の総会を再現するという意表を突いた幕開け芝居で始まる。
やがてそれがテレビドラマの撮影のため幹事会に参加できなかった研究生1期のマユミ(小川真由美がモデル)のために総会の模様を再現したのだと分かる。劇団の下っ端だった彼らは、自分たちも上演に関する総意を決めるべきだとして、話し合いを始めるのだが……。
当時の研究生たちは実在の俳優を想起させる名前になっている。
ダイゴは「喜びの琴」の主演に抜擢された草野大悟、シンは岸田森、チホは樹木希林(当時は悠木千帆)、トオルは元文学座代表の江守徹。
彼らのディスカッションはやがて、「喜びの琴」を通り越して、自分たちの役者としての私生活に重心が移っていく。
役につけた者、マスコミの仕事で売れた者、座員昇格できるか不安な者……それらの葛藤があらわになっていくのだ。
よくできた青春群像劇ではあるが、芸術と思想は切っても切れない問題だ。軍拡にかじを切った昨今のキナ臭さは、やがて表現芸術にも及んでくるかもしれない。その時、演劇人はどんな立ち位置をするのか。
「喜びの琴」事件は過去のものではない。今現在の問題であり、当時の全共闘世代の俳優ならば、もっと議論を深めたはず。もう少し、踏み込みが欲しかった。
鈴木結理、松浦慎太郎、渡邊真砂珠、小谷俊輔ほか。信濃町・文学座アトリエで12月15日まで。 ★★★