2022年ドラマ界を総括! 強い印象を残した“秀作5本”をメディア文化評論家が徹底解説
「あなたのブツが、ここに」ドラマが時代を映す鏡であることを再確認した
夏ドラマで出色だったのが「あなたのブツが、ここに」(NHK)だ。「ブツ」とは宅配の荷物を指し、描かれたのは宅配ドライバーとして働くシングルマザーの奮闘だ。コロナ禍で追い込まれた市井の人たちの苦境と心情をリアルに描いて秀逸だった。
物語は2020年秋から始まる。主人公は小学生の一人娘(毎田暖乃)を育てる、29歳の亜子(仁村紗和)だ。大阪のキャバクラ店で働いていたが、コロナ禍で店は休業状態。さらに給付金詐欺の被害に遭う。結局、母親(キムラ緑子)がお好み焼き店を営む兵庫県尼崎市の実家に身を寄せ、宅配ドライバーの仕事に就いた。
物語には感染状況の推移が織り込まれ、理不尽なものに振り回されるつらさと滑稽さが浮き彫りにされていく。ある時、疲れて落ち込む亜子が、売り上げが激減してもお好み焼き店を続ける理由を母に問いかけた。その答えは「いったん休んだらな、もう立ち上がられへん気いするんよ。逆にこのまま乗り切れたら、何があっても大丈夫な気いする」。
印象深いセリフが多い脚本は、「マルモのおきて」などを手掛けてきた櫻井剛のオリジナルだ。制作はNHK大阪放送局。ドラマが時代を映す鏡であることをあらためて思わせる一本だった。