CHEMISTRY×Da-iCE「スパロウズ」異世代コラボ誕生と楽曲制作への想い
蕪村とフーコーの幸福な邂逅はドン・キホーテ的かもしれないが…
それからテレビやライブでの共演を重ねて距離を縮めてきた両グループだったが、ついにオリジナル楽曲を作ることに。Da-iCEからお気に入りとして挙がったのがCHEMISTRY初期のヒット「You Go Your Way」。プロデュースと作詞(当時はペンネームを使っていたが)を手がけたぼくにとっても思い入れのある曲だ。フリーター世代の代表として20代前半でデビューした川畑と堂珍が、40代50代になっても歌い続けるには楽曲の汎用性を高める必要がある。そう考えたぼくが、歌詞の二人称をそれまでの「キミ」から「あなた」に変えた初めての曲でもあった。
ならば、続編を作ろう。不器用に恋を終わらせた主人公ふたりの今を。失った夢のカケラを丹念に拾い集めて、新しい紋様を編みだすのだ。ポップスの世界では稀だが今回は歌詞に二つの時間軸を共存させたい。もちろん音楽的には「You Go」のツボを含む必要がある。まずは同曲を作曲した豊島吉宏さんに22年ぶりの登板を呼びかけた。
直感でここまでたどり着けば、その先は先達の知恵を仰ぎ見ながら慎重に完成を目指す。これがぼくのスタイルだ。あと忘れてはいけないのが、ポップミュージックはつねに弱者の側に立つという信条。歌詞設定にあたっては、与謝蕪村の名句『夕立や 草葉をつかむ むら雀』に想を得た。社会の弱者たる主人公ふたりを二羽の雀(スパロウ)にたとえるのは、令和の世にあっても有効なはず。「一羽の雀」という有名なゴスペルもあるではないか。煩雑になりかねない時間軸の共存については、ミシェル・フーコーの名著『知の考古学』にある「言表が帰属する現在とは別の現在」という考え方を大いに参照し、「あったかもしれないもう一つの人生」という副軸を作ることで着地した。
蕪村とフーコーが幸福な邂逅を遂げるというアイディアは、いささか突飛でドン・キホーテ的かもしれない。だがそんな奇想の受け皿にもなるのがポップミュージックだし、奇想にリアリティを吹き込むのは優れたシンガーだけに許された特権だ。ぜひ実際に聴いて確かめていただきたい。