杉真理さん「あの時は緊張しました」 大滝詠一さんとスタジオで初共演した思い出のショット
杉真理さん(シンガー・ソングライター/69歳)
CMソング「ウイスキーが、お好きでしょ」で知られ、大滝詠一らシティーポップのシンガーとの幅広い交流の中で数々のヒット作品を生み出してきたシンガー・ソングライターの杉真理さん。来月には世界的なブームになっているシティーポップのライブ「シティポップ・スタジオLIVE」を開催する。杉さんにとって、音楽活動の原点となった貴重なショットを紹介してくれた。
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大滝さんとの出会いは知人の結婚式のパーティーです。知り合いが紹介してくれたのに、大滝さんはシャイな人だから最初は目も合わせてくれませんでした。
その後、僕のラジオ番組に出てくださったりして交流が増えていくのですが、今でも忘れられないのはシンガー・ソングライターの五十嵐浩晃君の曲のコーラスを僕がアレンジして、大滝さんと2人でやったこと。あの時は緊張しました。僕はビビっているのがなるべくわからないように歌いました。その時にスタジオで撮ったのがこの写真です。
でも、大滝さんとどうしてそんなことができたのか今でもわからないんですよ。あれは一体、何だったのかなあ。
その数カ月後のことです。大滝さんからナイアガラ・レーベルのヒット企画「NIAGARA TRIANGLE」(1976年、大滝、山下達郎、伊藤銀次)の第2弾「NIAGARA TRIANGLE vol.2」の発表がありました。
突然でした。レコード会社が集まり、あまり売れてないシンガー・ソングライターを売り出そうと、81年7月21~24日の4日間連続で「JAPACON」というライブを新宿ルイードでやった時のことです。初日は佐野(元春)君がやって次が濱田金吾君、その次が網倉一也君、最後の日が僕でした。そして最終日、全員が揃ったところに大滝さんがいらした。
ステージに上がると客席に向かって「80年代に『NIAGARA TRIANGLE vol.2』をやろうと思っている」と話を始めた。「一人は佐野元春君に頼もうと思う」と言うと、佐野君が「面白い! やります」と答える。それから「もう一人は杉君で行こうと思う」と言われ、すぐに「やります! やります」と犬が尻尾振るみたいに返事しました。
あとから聞いた話ですけど、大滝さんは「vol.2」を佐野、杉でやろうと決めていて、僕の予定を確認したら数日後に佐野と杉がそこ(JAPACON)にいることがわかり、「それなら自分も行こう」と考えたらしいです。大滝さんは発表の前の晩は興奮して眠れなかったそうです。
この出来事はレコード会社、事務所関係者には知らされていませんでした。難しい問題があるから、知られたら待ったがかかるに決まっているとわかっていて、大滝さんがゲリラ的な手法で既成事実をつくっちゃったということみたいです。実際あの時は大滝さんに言われて僕も佐野君も即答するしかなかった。「事務所の人に相談させてください」とか「ちょっと考えさせてください」なんて言っていたら、間違いなく実現しなかったと思います。
僕は大滝さんが「ロング・バケイション」(81年)で売れる前から好きで曲もよく聴いていました。その大滝さんが「ロング・バケイション」にようやくスポットライトが当たって注目され始めた時に、いきなり僕と佐野君を指名してくれたんです。普通なら、「ロング・バケイション」が売れて次も間違いなくヒットするとわかっているわけだから、自分のアルバムを出しますよね。だけど、そこで変化球を出してくる。予測不可能なところが大滝さんらしさなんですよね。