『敵』夢と妄想に取り憑かれた男の敵は…妻の「呪縛」か?
77歳の男は静かな日々の中で夢と妄想に身を委ねるが…
儀助は謝礼が10万円でないと講演を引き受けない。自分の話す内容にそれほどの自信があるわけではないが、料金を下げるとどんどん譲歩し、最後にタダになってしまうだろう。それが嫌なのだという。
とはいえ守銭奴でもない。杓子定規なきっちりとした性格なのだ。日々の暮らしぶりからも分かるように、すべてにおいて規則性を重視する。だから生活費の残金などから、自分があと何年生きるべきかを冷静に計算している。
この融通のきかない性格の男にパソコンを介して意味深なメッセージが寄せられる。また夜間飛行で女子大生の歩美(河合優実)と出会い、彼女に金銭援助をするべきかとの考えに至る。ところが歩美はカネを受け取った後、姿をくらましてしまう。
このあたりから就寝中の儀助の夢が乱れ始める。妄想と言ってもよい。妻を亡くした77歳の男は静かな日々の中で夢と妄想に身を委ねるのだ。
夜間の庭先に見知らぬ人影を見かけ、包丁を片手に追いかけて納屋に入る。そこには古いアルバムが開かれ、会ったことのない祖父の写真が目立つ場所に貼りこまれている。そのことから儀助は祖父が庭に立ち現れたのだと思うように。
また、教え子の靖子(瀧内公美)から妖しい誘いを受け、ソファの上で情事に及ぼうとするが、これも夢だった。つまり夢落ちの連発なのだ。