いまの「ホスピス」は入院が長くなると退院を勧められる
がんは痛むのか? 死ぬとき苦しむのか? がんであってもなくても、いつか死ぬのは仕方ない。でも、痛みだけはなくして欲しい――。誰しもが思うことです。
「緩和ケア」は、日常生活上で支障となる身体的、精神的な苦痛を早期から軽減し、患者・家族の快適な療養を実現するために、がんと診断された時から切れ目なく提供されることが重要と考えられています。特に痛みに対しての薬剤の進歩は目覚ましく、呼吸困難やだるさなどの身体的苦痛に対してもいろいろな工夫が見られます。
緩和ケア病棟(ホスピス)はそのための入院施設ですが、多くは「がんの治療はしない」とうたっています。実は、日本で最初にホスピスができた1980年ごろは、「効果の期待できる治療は、たとえホスピスといえども試みるべきである」と考え、がん治療を行う施設も存在しました。しかし、ここ十数年、診療報酬包括制度(検査、治療などにかかわらず1日の入院費用は同じ)になったこともあり、ほとんどの緩和ケア病棟では欧米と同じように抗がん剤治療などは行われなくなりました。
独身で独居生活のPさん(58歳・男性)は食道がんが進行し、Zがん専門病院の外来で抗がん剤治療を受けていました。