「安楽死」を希望する患者が診察して30分後には笑顔を…
このお話を受け、私はこんな提案をしてみました。
「治療経過から薬の整理をしてみましょう。S―1を内服していて肝臓に転移がきたのだから、S―1はもう効かないと思う。そして、今回はゲムシタビンとアブラキサンの併用で副作用が強かった。2年前に行われたゲムシタビン単独治療では効いている状態のまま手術になった。この時、副作用は出ていません。今回の肝臓への転移はゲムシタビンが効かなくなった結果ではなさそうだから、もしかしたらゲムシタビン単独でも効くかもしれませんよ。やってみますか? いかがですか?」
私の説明を聞いたMさんはすぐにニコッと笑みを浮かべ、「先生、納得です。やってみます」と返事をしてくれました。なんと、いきなり「安楽死させて」と飛び込んできた患者さんが、30分後には笑顔になって抗がん剤治療を行うことになったのです。
さらに、治療中に調子が悪くなった時は入院できることを保証し、Mさんはとても安心されたようでした。診察室を後にされる時、Mさんは「いま家族は犬1匹だけです。犬が死ぬ前に自分は死ねないのです。犬と一緒に安楽死させていただくつもりでした」と笑っていました。