恐怖のない安寧な死はある 104歳の女性患者に教えられた
私は約40年間、がん患者の診療に携わることができ、幸いにも多くの患者さんががんを克服されました。しかし一方で、残念ながらたくさんの方をみとってもきました。進行したがんで人生を中断され、「生きたい」のに無理やり、死ななければならなかった方々の無念さが、私の身に染み込んでいる気がするのです。
宗教を信じない人が多い現代で、最近は「治らない」ことや「短い命」であることが患者に告げられています。
患者は心安らかに過ごせているのだろうか、死の恐怖にさいなまれているのではないか……そんな思いが、いつも心にあります。
それにしても、死とはすべてに恐怖があるのだろうか? 自然死では恐怖はなく、安寧な気持ちで亡くなっているのだろうか? そんなことも考えます。
ずっとがん死をみとってきた私は、介護老人施設に一時勤務した時、数人の自然死をみとる経験をしました。ほとんどぼけ症状の見られない104歳になるRさん(女性)は、やや大柄な顔立ちで白いぼたんのような方でした。