想像力が脳を活性化 小説の舞台巡りで記憶力アップ効果も
元気で長生きするには健康第一。そのために運動に励んでいる人は少なくないだろう。もちろん運動も大切だが、こと脳の健康という視点だと、より重要なのは読書。本や雑誌、新聞を読むことが、脳の機能の改善や維持に役立つのだ。
生涯現役の医師として活躍した日野原重明さんは2017年に105歳で亡くなるまで、読書家として知られる。精力的に執筆を行っていて、13年前の94歳当時のNHKのインタビューにこう回答している。
〈24時間のうち18時間は文章を書いたり、会議に出たりして何かの仕事をしています〉
睡眠は5時間ほどで、週に1回は徹夜作業だったという。執筆のための読書量は相当だろう。90代を越えてなお元気だった秘訣はこれか。
「健康・体力づくり事業財団」が、全国の100歳以上の長寿者1万1346人を対象に行った調査「日本の百寿者のくらし」(1999年)によれば、趣味を持つのは男性で46.6%、女性は26.9%。そのうち、男女とも10%超が「読書・教養」を趣味にあげる。特に男性は15.2%に上る。では、活字によく触れる生活を送っている人は、なぜ脳が元気なのか。
オックスフォード大学のジョン・スタイン教授が発表した、読書中の人の脳をMRIでスキャンした実験結果によると、被験者が本の中の景色や音、においや味を想像しただけで、大脳のそれぞれをつかさどる領域が活性化したという。ジョン・スタイン教授は、「読書が大脳を刺激し、想像力が脳を活性化する」と結論づけている。
一方で、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、2012年1月23日に発表した研究結果によると、読書やパズルなどで継続的に大脳を刺激する趣味を持つ人は、アルツハイマー病の原因物質のひとつ「アミロイドβ」の蓄積を抑制できることが分かったという。
別の研究で認知症の症状が出ていない60歳以上の大脳を調べると、子どものころから読書好きだったりする。そうやって大脳を使っていた人は、そうでない人に比べて「アミロイドβ」がかなり少なかったという。
「脳科学者の母が、認知症になる」(河出書房新社)の著者で、脳科学者の恩蔵絢子氏はこう言う。
「新聞や本を読むことは、記憶の引き出しを増やすことにもなるんです。活字を読んで、内容を理解しようとしたり、登場する人物を推しはかろうと想像したりすることで、考える力がつくのです。とくに脳と感情は結びつきが強く、感情が揺さぶられるほど、その感覚が記憶として定着しやすい。脳の中では言語的なエピソードとして記憶を定着させる海馬のすぐ隣に扁桃体と呼ばれる感情の中枢が位置しています。感情のシステムが働いて、その信号が海馬に届けば、記憶としてより強く定着するのです。机に向かって読むだけでなく、小説なら実際にその舞台になった現場に足を運んだり、美術の本なら、博物館に行ってその芸術品を目で見ることもやってみると記憶力が高まります」
GWに舞台となった現場を巡るのもよさそう。