切り昆布は体をアルカリ性に近づけるうま味成分のかたまり

公開日: 更新日:

日本人の腸内には海藻を分解できる微生物がいる

 中学生の頃だったか、社会科の先生が夏の宿題を出した。どうして西洋世界は、地球を征服するに至ったのか?という大きな問題だった。これは、なぜアジアやアフリカのほとんどは西洋の植民地にされてしまったのか、という問いでもある。あるいは、なぜ白人が覇権を握ったのかとも読み替えられる。

 今となっては先生の解答が何だったのかよく思い出せない。中学生には荷が重い課題だったが、結局、学生たちに「風土」の問題を考えさせようとしていたのだと思う。

 人種として白人が優れていたのではなく、彼らがたまたま、衣食住及び武器製造に有利な場所に住み着いたから優位に立てたのである。後になって、それは和辻哲郎が古典的名著「風土」で言っていたことだし、あるいはジャレド・ダイアモンドのベストセラー「銃・病原菌・鉄」のテーマでもあることを知った。

 さて、日本人とフランス人の腸内細菌を調べると、日本人の腸内には海藻を分解できる微生物がいるが、フランス人にはほとんどいないという。これは、食環境に応じて腸内細菌も適応しているということ。風土に合った食事を食べるべきだという如実な証拠である。

 昆布は、うま味アミノ酸を大量に含むダシの王者であるとともに、ヨウ素などミネラルも豊富。日本人の食に欠かせない風土食だ。古来、北海道から全国に昆布を輸送した「昆布ルート」まであった。ぜひ風土の恵みを味わおう。

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…