<6>自分は退院も、重症化一歩手前の母に後ろ髪を引かれる思い

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 9時10分。看護師さんが迎えに来た。コロナ患者、コロナ疑い患者の交錯をうまく回避する。徹底的な非接触を目指す感染対策。またしてもコロナ医療最前線の医療スタッフにかかる負荷を垣間見た。

 私はおかげさまで生きて帰れた。病院には感謝しかない。治療で最もつらかったのは、入院直後の症状のピーク時だった。「一緒に退院しようね」と励まし合っていた母はまだ予断を許さない厳しい状況だ。コロナ病棟なので見舞いにも行けない。母は症状が改善せず、長期化し、気持ちで負けている。後ろ髪を引かれる思いだ。

 思えば、母はコロナを恐れて一切外出しなかった。私から家庭内感染したのは明らかだ。母への悔悟の思い。これで万が一、最悪の事態になったらどうしよう。一生の不覚である。精神的にはこれが一番つらかった。それなのに、自分が先に退院する。

 10日ぶりに自宅に帰った。看護師さんから母の紙おむつ、パジャマを届けて欲しいと言われた。帰宅後、すぐに母の荷物をまとめ、とんぼ返りで病院に向かった。看護師さんの負担を考え、病棟まで届けると言ったが、私はまだ健康観察期間である。感染症対策で、警備室の前で受け渡しをした。

「入院中はお世話になりました。母が引き続きお世話になります」

 地下駐車場までは階段で降りる。足腰がふらふらしている。相当、筋力が弱っている。(つづく)

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