乳がんで妻を亡くし「時間が解決してくれる」と言われたが…
葬儀も3人だけの家族葬で済ませました。奥さまには姉がいますが、北海道に住んでいて来られませんでした。電話で亡くなったことを伝えた時、「コロナだから行くことができない。5年間、大変でしたね。ご苦労さまでした」とねぎらいの言葉をかけられました。
息子と娘は、3泊してそれぞれ暮らしている仙台と名古屋に帰っていきました。それからは、Aさんひとりになりました。自宅に残ったのは、机の上に置いた白い布で包まれた骨箱、遺影、斎場から持ち帰ったお花だけです。ろうそくをつけ、線香をあげ、リンを鳴らすと、チーンという音が長く響きました。
先日、奥さまの姉がまた電話をくれました。4年前に夫を亡くしており、いまはひとり暮らしです。
「Aさん、大丈夫? 落ち着いた? 行かなければと思ったんだけど、やっぱりコロナがね……」
姉の声は奥さまにそっくりで、思わず涙が出てきました。
姉は、「時間が解決してくれるから……。私なんか、夫が死んで一周忌が過ぎてから、やっとひとりに慣れてきたわよ」と言ってくれます。ただ、いまのAさんにとって「時間が解決してくれる」との言葉は、その通りだと思いながらも何だかとても冷たく響きました。「時間」と言われても、いまは一日をとても長く感じています。奥さまを見舞うため病院に通っている時は、一日が長いなどと考えたこともなかったのに……。