「梅毒を武器に敵と戦った女性」を描いたモーパッサンの背景
作者のモーパッサンは代表作の「女の一生」をはじめ、42歳で亡くなるまでに300を越す中短編、6編の長編、3冊の旅行記、250に及ぶ時評文、共作を含め2編の戯曲を残した作家です。若い頃に普仏戦争に従軍し、敗走の経験があり、従軍中の体験を元にした作品を数多く残しています。「二十九号の寝台」はそのひとつです。
梅毒をテーマにしたのは、モーパッサン自身が梅毒だったからかもしれません。彼は27歳頃から梅毒による神経障害に苦しむようになり、38歳で不眠症を患い、奇行が目立つようになります。「エッフェル塔を見るのが嫌で、エッフェル塔のレストランで食事をした」というエピソードはこの頃の話です。そして41歳でピストル自殺未遂を起こして精神病院に入院し、そのまま42歳で亡くなります。