可能性があったはず…「縦隔腫瘍」だった若者をいまも思い出す
約35年も前のお話です。当時23歳だったFさん(男性)は、就職した会社の2年目の健診で胸部X線に異常影を指摘され、胸部外科に来院されました。X線検査の写真では、前縦隔(心臓の前、両側肺の間)に径8センチの大きな腫瘤を認め、上大静脈を圧迫していました。
呼吸器外科医は手術不能と判断し、私が勤務している内科(化学療法科)での診療を依頼してきました。腫瘍の針生検検査では、がん細胞を認めています。
呼吸器外科医は、すでにFさんの父親に「このままでは長くは持たないと思います。覚悟をしておいてください」と告げていました。当時、この病気はいかなる治療でもほとんどが助からない時代でした。
化学療法科に転科されてきたFさんは、頚が太くなっているのが一目で分かります。私は、Fさんの父親に「がんの大きくなるスピードが速く危険な状態です。抗がん剤治療ができるギリギリと思います。何とか良くなるように頑張ってみましょう」と、治療の了解をとりました。父親は覚悟はできているようでした。
「点滴などが続くが頑張ろう」という私の言葉に、Fさんは「よろしくお願いします。先週から首や顔が腫れて苦しいです」と話されました。