ある認知症の女性は「主役体験」によって徘徊しなくなった
人生の一コマを物語に例えれば、ワンシーンであっても物語の主役になりたいと思うのは、認知症の人も同じである。主役になって称賛されたら気分がいいし、生きていることを実感できる。
でも認知症の人は常に無視されているから、そんな機会はまずやってこない。重度認知症デイケア「小山のおうち」(出雲市)では、誰でも主役になれる環境を整えていた。
例えば、認知症の人が何を語っても、どんな歌を歌っても、全員が拍手で絶賛するのもその一つだ。他者から認められたら主役になった気分になれるのだからこんな楽しいことはない。それだけで彼らは自信を取り戻していくのである。
ずいぶん前だが、婦佐さんという戦前生まれの女性がいた。おばあちゃん思いの一家なのに、婦佐さんが認知症になると徘徊するようになった。
彼女の自慢は料理などの家事だったが、認知症が進行すると味付けがおかしくなったり、鍋を焦がしたりと、失敗が重なった。
家族は心配したのだろう。息子の嫁はそれまで勤めていた仕事をやめ、婦佐さんに代わって家事全般を引き受けることになった。これだけでも息子夫婦の母親思いが伝わってくる。