ある認知症の女性は「主役体験」によって徘徊しなくなった
ある日、「小山のおうち」で、戦前の文部省唱歌「那須与一」を歌ったところ、スタッフらからアンコールが飛ぶほど喜ばれた。家に帰ると孫たちからもせがまれ、歌ってみると家族は拍手喝采して喜んだ。それをきっかけに家族との会話が増え、いつの間にか婦佐さんの徘徊は自然消滅してしまったのである。
ささいなことでも拍手喝采されたら、主役になったようで気分がいい。常に人格を否定されている認知症の人ならなおさらだろう。卑近な例をあげて恐縮だが、飲み屋で隣の美女からヨイショされて主役になったら気分がいいのと同じだ。認知症の人も同じで、気分がよければ、怒ったり家を出ていったりすることもなくなる。当然だろう。
(つづく)