池袋「みつぼ」サラリーマンと大学生風の隙間でつぶしたてのモツを堪能
第69回 池袋(豊島区)
アタシが池袋に足しげく通っていたのは、昭和50年代。東口の裏通りの危なっかしい場所に歴史的名画座の文芸坐があったころだ。地上の文芸坐では洋画、文芸地下では主に日本映画を上映していた。
土曜日の夜はオールナイトで5作品なんて当たり前。サム・ペキンパー大会やら、ATG大特集などに熱狂してほぼ毎週通っていた。2000年代に入ると、りんかい線と埼京線がつながり、大井町から20分足らずで池袋に行けるようになった。が、そのころにはかつての文芸坐は閉館。新文芸坐と名称を変え、ハイテク音響機材などを導入し営業を続けている。最近では見に来る客も我々の頃と違い、ちょっと小奇麗な平成世代の若者たちが中心のようだ。
近頃のアタシは時間があると埼京線に飛び乗って池袋から目白界隈をぶらつき、シブい古書店を覗く。そしてジュンク堂裏の「やきとんのみつぼ」で一杯やる。これがささやかな楽しみである。
みつぼは午後3時半開店と同時に満席の超人気店だ。1989年に江戸川橋で創業。当時は3坪の店からスタートしたということで店名を「みつぼ」に。つぶしたての新鮮なモツのうまさは他店の追随を許さない。モツ好きのアタシが言うのだから間違いない。
今日も4時過ぎに覗くと、ほとんど満席。入って左側のテーブル席は複数の若い男女でいっぱい。細いコの字カウンターも見たところ満席だ。が、お姉さんが席をつくり、押し込んでくれた。この店のカウンター客のほとんどは1人。人気店での飲み方をわきまえている達人ばかり。混んでいるときはお互いさまと、嫌な顔せず隙間に入れてくれる。アタシの左には営業途中のサラリーマン風。今日はそのまま直帰かな。右は留年3年目の大学生といった感じの若者。スマホで動画を見ながら酎ハイを飲んでいる。と、そこにグツグツと煮立ったモツ煮鍋がやって来た。
若者はイヤホンを外して「申し訳ないっス」と言いながらアタシの前の七味を持っていく。すると左のサラリーマンのところにシロタレが来たから、アタシの前を七味が行ったり来たり。「すいません!」「いやいや」などと混んでいる酒場の流儀を知っている飲み達(飲みの達人)たちのやりとりになんかほのぼの落ち着くアタシ。早速アタシも「キク(90円)とテッポウ(110円)をタレ、トロカシラ(100円)は塩。マカロニサラダ(200円)とチューハイ(290円)」。