羽生結弦と町田樹 「鏡よ鏡、世界一のスケート王子はだあれ?」
「鏡よ鏡。世界一のスケート王子は誰?」
鏡に映る自分は毎夜笑って答え続ける。
「何を言ってる樹。それはおまえだよ」
安堵して眠りにつくが、町田樹よ、まなじりを決して鏡をのぞき込むがよい。
「鏡よ鏡よ答えておくれ。世界で一番素晴らしいスケート王子は、誰?」
鏡の中の自分の顔が、もわもわと崩れ、照明が落ちて窓のカーテンがブワンとはためいて稲光と雷鳴、できればパニック映画で類型的恐ろし伴奏音楽を書かせればいまだに一番とジイサマになっても思っているジョン・ウィリアムズの曲が低弦でズズンと流れ、(それがジョーズそっくりで気になるが)鏡の中の町田樹の顔はみるみる青ざめ、紫色の口が裂け、目には幾重にも隈が入って、
「世界一番のスケート王子、それは……」
「そ、それは?」
「それは……羽生結弦」
長髪かきむしりベッドに身を投げ出してもだえ苦しみ、