執刀100人超の医師が語る「トミー・ジョン手術」のすべて
――手術には高度な技術が必要ですか?
「敏腕ドクターにとっては、手術そのものは決して難しくはありません。手術法は米国で2つあり、ひとつはフランク・ジョーブ博士が考案した『フィギュア8』といわれる手掌もしくは膝から採取した腱を八の字に移植するやり方です。この方法だと靱帯が長いので、靱帯の強さが劣ります。初期のやり方なので成功率は68~85%といわれています。2000年代に入って開発された『ドッキング法』は腱を上腕骨側で結合するものです。年々、技術が向上していることもあり、こちらは90~95%の投手が復帰しています。我が国でも90年代に開発された伊藤法という手術術式があり、靱帯を移植した後に骨を骨孔(上腕骨の穴)に差し込んで固定する方法があります。これも復帰率は93%と報告されています」
■PRPの効果があるのは中高生
――田中(ヤンキース)が選択したPRP(多血小板血漿)療法と手術の分岐点は何ですか?
「診断基準となるのは靱帯が完全に断裂しているか、部分的に損傷しているかです。MRIでハッキリと靱帯が切れているのが確認できること。もうひとつは、エコー(超音波)で肘にストレスを与えた際に関節が3ミリ以上開いた場合、完全断裂と判断し、手術を勧めます。MRIで靱帯の断裂や損傷を示す白い部分が薄く写っている程度で、関節が開かない場合は部分損傷として考え、選手が希望すれば、PRPを選択します。私の経験した症例ではPRPは成長段階にある中高生には効果がありますが、成長期を過ぎた選手にはあまり期待できません。田中投手も患部に負担がかかり過ぎると、再発する可能性はあります」