桐生には100m9秒台の過剰期待 日本人の“限界”を専門家解説
本当に9秒台なんて出せるのか。
陸上の織田記念国際最終日(19日、広島)、男子100メートル決勝の桐生祥秀(19=東洋大)は、向かい風0.2メートルの条件下で10秒40の2位タイ。気温16度で冷たい雨にたたられたとはいえ、優勝も10秒37のケンブリッジ飛鳥(21=日大)にさらわれた。
「記録を期待されたが、まだまだ実力不足。しっかりトレーニングをして9秒台を出せるように頑張りたい」
レース後にこう話した桐生は、先月に行われた米テキサス州の競技会で、3.3メートルの追い風参考ながら、同種目で9秒87をマーク。スポーツマスコミは今大会で日本人初の公認9秒台を期待。報道で煽り、約1万5000人の観衆がスタジアムに集まった。NHK・BSも急きょ大会最終日を生中継。わずか10秒で終わるレースのために、1時間以上もの枠を用意し、番組冒頭から過去の桐生のレース映像やインタビューを垂れ流す「時間稼ぎ」までしたが、レースが終わった瞬間、日本列島から大きなため息が漏れた。
日本人男子の陸上100メートルランナーにとって「10秒の壁」はとてつもなく厚いものだ。人類で初めて9秒台を記録したのは1968年全米選手権のジム・ハインズ。タイムは9秒99(手動記録、電動計時10秒03)だった。ハインズは同年メキシコ五輪で9秒95(電動計時)で金メダルを獲得。その記録は、09年世界選手権で「ジャマイカの稲妻」こと、ウサイン・ボルト(28)がたたき出した9秒58まで伸びた。しかし、過去に9秒台を記録した80人以上はほとんどが黒人選手。白人ランナーはオーストラリアのパトリック・ジョンソン(03年9秒93)と、10年に9秒98を出したクリストフ・ルメートル(フランス)の2人しかいない。