桐生には100m9秒台の過剰期待 日本人の“限界”を専門家解説
■朝原宣治が「これじゃ勝てないよ」と漏らした決定的な差
国内記録を見ると、98年アジア大会(バンコク)で伊東浩司が出した10秒00は今も更新されていない。人類が10秒の壁を破ってから47年も経過しているのに、日本人はやっとその壁の前にたどり着いたに過ぎないのだ。
運動選手の身体に詳しいフィジカル・トレーナーの平山昌弘氏は、「そもそも日本人は短距離に向かない人種なのです」といってこう語る。
「高額賞金が稼げるということで、アフリカ勢が参加するようになったマラソンはこの10年で飛躍的に記録が伸びた。今や2時間2分台で走る者もいる。マラソンは疲労を軽くする体の効率的な使い方や着地などの改善により、日本選手でも記録が伸びる余地は残されている。でも、改善点が少ない短距離は厳しい。運動生理学的にみても瞬発系競技は先天的に黒人が有利なのです。例えば、人は生まれながらにして筋肉繊維量が決まっている。トレーニングによって繊維は太くなっても、数は増えない。かつてNHKの番組で朝原宣治氏(北京五輪4×100メートルリレー)と、後に100メートル9秒72の記録を出すアサファ・パウエル(ジャマイカ・同種目金メダル)の腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)を比較したことがあった。足を引っ張り上げるときに使う朝原氏の腸腰筋量はパウエルの半分。その結果に朝原氏は『これじゃ勝てないよ』と漏らしたものです」