「投げない怪物」著者に聞く 佐々木朗希“温存波紋”の行方
――佐々木の登板回避を機に、高校野球は変わろうとしている?
「甲子園をひとりで投げ抜くような怪物はもう生まれないと思います。大阪桐蔭も複数投手のローテ制。今の甲子園は二枚看板や継投といった、ひとりの投手に頼らないチームづくりをしないと勝ち上がるのが難しくなっている。明徳義塾(高知)の馬淵監督ですら、今夏の予選ではエースを決勝まで温存していたほどです」
■青田買い実情
――必然的に部員を多く抱える強豪校が有利になる。
「佐々木や去年の吉田のようなケースは、さらにまれになっていくでしょう。甲子園を目指す子はますます強豪校に集中し、『あの学校は連投させない』という理由で進学先を選ぶ球児も出てくる。大阪桐蔭が強いのは、素質のある中学生を集め、適材適所に配置し、練習試合や公式戦で競わせ、頻繁にベンチを入れ替えることでレベルアップを図っているからです。大阪桐蔭は甲子園でベンチ入りしていない選手ですら、有名私学に進学している。そりゃあ、中学生がこぞって行きたがるわけですよ。強豪校が中学生を青田買いしているように見えて、中学生に品定めされているのが実情です」
――今後、高校野球はどうなりますか?
「高校野球にはこれまで、歴史の転換点となる試合がいくつもあった。1983年にKKコンビを擁するPL学園(大阪)が優勝候補の池田を破った試合、そのPLを横浜(神奈川)の松坂が延長十七回をひとりで投げ抜いて破った試合などです。佐々木の一件もあって、むしろ選手が『監督、今日は投げられません』と登板拒否するようになるかもしれない。甲子園より健康を優先する新たな価値観が生まれた試合として、この夏の岩手大会決勝は、語られる試合になるかもしれない。それでも、佐々木の将来を守るあまり、結果的に他のナインの夢を奪う形になった国保監督の采配を称賛することは僕にはできません」