五輪延期なら選手や経済損失は…6つの疑問を専門家に聞く
新型コロナウイルスの感染拡大で、東京五輪が窮地に立たされている。国際オリンピック委員会(IOC)は、「予定通り7月24日の開幕」と強調しているが、大会組織委員会の理事や米国のトランプ大統領も延期に言及。16日には、英国の陸上800メートルの有力選手のガイ・リアマンスが【2020年東京五輪の延期をIOCに要求】と英ガーディアン紙が報じた。
ついにアスリートからも通常開催への疑問の声が上がり、2022年の冬夏五輪の同時開催という2年延期が現実味を増している。東京五輪関係者の間では「中止よりマシ」との意見もあるが、仮に延期でもその影響は甚大だ。
【Q1】代表選手選考はどうなるか
五輪延期で最も割を食うのは、出場権を勝ち取った代表選手たちだ。国内ではすでに柔道(男子66キロ級除く)、女子レスリング、男女マラソン、卓球といった、メダル獲得を期待される大半の競技で代表選手が内定。競技や種目によって選考方法に差異はあっても、各団体の強化委員会は、「メダル獲得の可能性」を優先して人選した。
すでに代表権を得た選手の多くは表彰台を狙える実力の持ち主だが、それはあくまでも今夏の大会に限ってのことだ。仮に五輪が1年以上の延期となれば、代表選手選考のやり直しをせざるを得ないのではないか。各競技団体の広報担当者に今後の見通しを聞くと、いずれも戸惑いを隠さない。
全日本柔道連盟「(延期された場合の)話し合いはしていません。何も決まっていません」
日本卓球協会「現時点で話し合いもないし、(延期に関する)情報は何もありません」
日本レスリング協会「世界最終予選(4月30日~5月3日=ソフィア)ですら延期になったので、こちらとしては何もしようがありません」
スポーツライターの木村秀和氏がこう言う。
「特に柔道やレスリングなどの格闘技は、最重量級を除けば、減量を強いられる上に、普段の稽古や練習で常に故障のリスクもつきまとう。今回の代表選手がメダルを獲得するだけの実力を維持できる保証はありません。再選考となれば、漏れた選手も目の色を変えて出場権を取りにくる。『メダル獲得を見込める選手』の原則に立てば、延期された場合は、開催時期に合わせて選考し直すべきという声が出てくるのではないか。各選手の実力向上も望めるだけに、今回の代表選手を無条件で送るのが果たしていいのかという議論が出てくるはずです」
夢にまで見た五輪キップを延期によって剥奪される選手の心情は容易に想像がつく。各競技団体が極めて難しい選択を迫られるのは間違いない。
【Q2】会場・施設の維持費はどうなるか
約2520億円の建設費をかけてつくった新国立競技場をはじめ、競技会場は43もある。新国立だけで年間維持費は約24億円。東京都が1300億円以上を投じて整備・新設した6つの競技会場の維持費だけでも莫大な金額になる。都の五輪準備局の資料によれば、新設6会場のうち大会後の年間収支が黒字になるのは、バレーボール会場となる「有明アリーナ」だけである。
近著に「オリンピックの終わりの始まり」(コモンズ)があるスポーツジャーナリストの谷口源太郎氏がこう言う。
「世界中に感染が拡大している状況を考えれば、IOCはまず東京五輪の開催中止を決断せざるを得ない。人道的見地からすれば当然で、延期の議論はそのあとです。来年8月に米国で陸上の世界選手権の開催が決まっていますから、延期なら2年後の2022年が現実的。当然、1年延期より2年延期の方が維持費はかさむ。五輪後の利用方法が、いまだ決まっていない新国立競技場をはじめ、多くの施設が五輪後、レガシーどころか負の遺産になると言われていたが、延期となれば、始まる前から負の遺産になる。招致段階でのアンダーコントロール発言から始まった東京五輪は、嘘と欺瞞だらけ。その報いという気がしてなりません」