コロナ禍での中断延長に揺れるJリーグを緊急探訪【千葉】
日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長(62)の新型コロナウイルス感染は、Jリーグ全体にも大きな影響を及ぼし始めている。4月3日再開予定の公式戦の再々延期の可能性も浮上する中、各クラブは報道陣の出入りにより神経を尖らせている。田嶋会長との接触歴やJFAハウス訪問歴を記者に問い合わせたり、取材禁止に踏み切るところも出てきた。そんな中、2009年以来のJ1復帰を目指す<オリジナル10>の千葉は18日に練習を公開。2012年JリーグMVPの佐藤寿人(38)は「みんながしっかり自己管理を続けて、早くサッカーがある日常を取り戻したい」と切なる思いを吐露した。
「田嶋ショック」が日本中を駆けめぐり一夜明けた18日午前。穏やかな晴天に恵まれた千葉市内の練習場に佐藤寿人や川又堅固(30)ら日本代表経験者たちが次々と現れた。
練習前のミーティングで今季から指揮を執る尹晶煥監督(47)に「会長も感染するんだから、全員がより行動をしっかりチェックして取り組まないといけない」と釘を刺されたこともあり、選手たちには多少のピリピリムードも感じられた。
だが、ボールを蹴り始めると表情は一変。パス交換やシュート練習をこなすたびに自然と笑顔がこぼれる。
実戦を想定した戦術練習に入ると、尹監督も身振り手振りで指示を送るなどヒートアップ。本気でJ1復帰を狙う意気込みが色濃く感じられた。
しかし、熱く戦う姿を多くの人々に見せられない今の環境はつらい。「早く日常を取り戻したい」という佐藤寿人の言葉がズシリと響いた。
「田嶋さんが陽性っていうニュースはネットで見ました。世界を飛び回っていたということなので、それもあり得ますよね」と川又は神妙な面持ちで言う。
同じく元日本代表の安田理大(32)も「サッカー関係者、しかもトップの人がかかったということで『来たか』って感じはしました。僕らも買い物に行ったって感染する可能性はある。どれだけ予防しても仕方ない部分はありますけど、最低限の努力はしていきたいです」と自覚を深めた。
選手の予防意識が非常に高いこともあり、日本ではまだJの現場から感染者が出ていないのが幸いだ。欧州では吉田麻也(31)が所属するサンプドリアで7人、原口元気(28)所属のハノーファーで2人の陽性反応者が出て、全選手が自宅待機になっている。
「僕らは試合がないという日常が奪われただけで、まだ恵まれている。もっともっと苦労している人がいると思います。子供たちも休校になって大変ですけど、僕の中学生の次男も滅多にやらない読書をしたり、普段とは違うことに取り組んでいる。家族の時間が増える部分もあるだろうし、どんな状況でもポジティブにできる。僕も今の時間を少しでも有意義にするように努力したいです」
佐藤寿人がこう前向きに話してくれた。そういう姿勢は、悲願のJ1を目指す千葉に好影響をもたらすのではないか。
■「五輪は開催してほしい」(安田理大)
イビチャ・オシム監督が率いた2005、2006年にナビスコ杯(現ルヴァン杯)を連覇した名門の千葉が、J1から陥落したのは2009年である。その後、関塚隆氏(現協会技術委員長)、木山隆之仙台監督ら9人の指揮官が率いたが、今季で11年目のJ2を戦うことになった。
しかし、尹監督は2017年にセレッソ大阪をルヴァン杯、天皇杯の2冠達成へと導いた名将。開幕前のキャンプでは3部練習も行うなど、J2の水に慣れた千葉に厳しさと闘争心を植え付けようと躍起になっている。
「尹さんはチーム全体で組織的に守ってボールを奪ってからショートカウンターで攻め切る形が中心。耐える時間が多いのは確かですけど、勝ってサポーターとともに喜ぶという明確な目標に向かっている。僕は尹さんとは選手時代も一緒にプレーしてますし、アメとムチの使い方がうまい人だと思います」と佐藤は手応えを口にする。
2014年に鳥栖で同監督とともに戦った安田も「方向性がすごくハッキリしているので、戦い方が整理されていてやりやすい」と目を輝かせる。
そのサッカーでいち早く快進撃を見せたいところだが、公式戦再開はさらに先送りになるかもしれない。7月24日開幕の東京五輪の開催にも暗雲が立ち込めている状況だ。
2008年北京五輪経験者の安田が「W杯はサッカーが好きな人中心の大会だけど、五輪は若い人からおじいちゃんまで全員、日本を応援する大会。僕が北京に行った時もすごかった。しかも今回は東京だから2002年の日韓W杯以上の盛り上がりになるし、出場できる選手は幸せだと思います。だからこそ五輪は開催してほしい」と経験者らしいコメントを口にした。
何よりもまずはJリーグが再開され、そして千葉が快進撃を見せ、東京五輪も予定通り開かれる。そういうシナリオになるように今、彼らとともに祈るしかない。