伊藤智仁の起用を巡る葛藤 キューバ、台湾戦では信頼せず
監督をやっていると、選手のため、チームのために決断したことが本当に良かったのかどうかという葛藤が絶えずある。大きな試合ともなると、なおさらである。
バルセロナ五輪での伊藤智仁(三菱自動車京都→ヤクルト、現楽天コーチ)の起用は、28年経った今も、さまざまな思いに駆られる。
私は、金メダル争いにおいての最大のライバルであるキューバ戦や、準決勝の台湾戦で伊藤を起用しなかった。両国に敗れて金メダルを獲得できなかったことで、なぜ伊藤をキューバや台湾にぶつけなかったのか、なぜもっと伊藤をうまく使わなかったのか、という見方もあろうかと思う。
■もっと信頼しておくべきだったのか
私は対戦国ごとに起用する投手を決めて五輪本番に臨んだ。89年の監督就任以降、国際大会ではときに勝敗を度外視し、投手の能力の把握と、ライバル国の研究に時間を費やした。91年だけで強化合宿を6度、国際大会の参加期間も含めると、日本代表としての活動は88日間に及んだ。荒井信久、野端啓夫両コーチとは、どの投手をどの国にぶつけるのがベストなのか、何度も話し合った。