注目のタイトル争い 三冠王3度の落合は自己チューだった
シーズン終盤の試合で、首位打者争いをしていた左バッターが打席に立った。その時、一塁にいたランナーが盗塁を試みたものの、間一髪でタッチアウト。その後、打ち取られてベンチに戻ってきたバッターが盗塁に失敗した選手に怒りをぶつけた。
「なんで盗塁したんだ!」
「ベンチから盗塁のサインが出たからですよ」
「盗塁しないで一塁にいろ!一塁にいれば一塁手はベースにくっつくから、一、二塁間がガラ空きになる。引っ張ればヒットが出やすくなるじゃないか!」
サインが出ているのに走らなければ問題だし、成功すれば得点のチャンスが広がる。しかし、そのバッターにとっては自分がヒットを打てる確率の方が大事だったわけだ。
「首位打者を何度も取るような人は考え方が違う」
怒られた選手は妙に感心したそうだ。
プロ野球は厳しい競争社会。時には「自己チュー」にならないとタイトルは取れないのかも知れない。
▽富岡二郎 スポーツジャーナリスト。1949年生まれ。東京都出身。雑誌記者を経て新聞社でスポーツ、特にプロ野球を担当。