陸上中長距離で注目の21歳 田中希実の素顔を母親が明かす
同志社大では陸上部に入部せず
一方で、学業も怠らなかった。
「工業高校なので資格も幾つか取っていました。遠征や大会などが多く、あまり試験を受けられませんでしたが、基本情報技術者の1級は取っていましたね」
高校卒業後、親元を離れ同志社大へ進学するも、「駅伝だけにとらわれたくない」と陸上部には入らなかった。現在は豊田自動織機TCに所属し、父の健智さんから指導を受けつつ中長距離ランナーとして活動。800メートル、1500メートル、3000メートル、5000メートル、1万メートル、さらには4~8キロの距離で野山を駆けるクロスカントリーの計6種目に挑戦している。
「同志社大は陸上部に入部しなくてもグラウンドを使わせてもらったりと、すごく良くしていただいています。部のSNSに取り上げてくださったり、去年のドーハ世界陸上の直前は、部員全員が集まってエールを送ってくれたりもしました。本人も喜んでいたみたいです。大学だけでなく、本当にさまざまな人に支えられています」
■順位より自分の記録
親として娘の一人暮らしに心配もある。
「最初の1年は起きられるか心配で毎朝電話していました。それに、『自炊を頑張ろうかな』と言っていたのに、結局やめちゃったみたいなんです。私が作って持っていこうと思ったこともありますが、食べたいときに食べたいものを食べてほしいので……。今は栄養面に気を付けながら、コンビニで済ませているみたいです(笑い)」
田中は12月4日に開催される日本陸上競技選手権(長距離)の5000メートルで、五輪切符を掴み取ることが確実視されている。
というより東京五輪の参加標準記録を突破しているのは現時点で5000メートルだけ。それだけこの種目にかける気持ちは強いと思ったら、意外にも本人は五輪へ特別な思い入れはないという。
「もともとそれほど『五輪、五輪』という気持ちはありません。それは東京での開催が決まってからも変わらなかった。希実はレースで1位になっても、そのタイムが前回よりも悪かったら落ち込むタイプです。順位よりも自分の記録を縮めていきたいという気持ちが強いので……。そうして常に自分を超えていけば、結果として五輪が付いてきますからね。ですが、海外選手と戦ってみたい、そして、いろいろな国に行ってみたいということもモチベーションになっています。去年の世界クロスカントリー選手権の舞台はアンデルセンで有名なデンマークでした。本の舞台になった国や、本で知った場所に興味を持つ子なので、そこに行くために気合が入っていました(笑い)」
田中が今後、どんな走りを見せてくれるのか注目だ。
(取材・文=杉田帆崇/日刊ゲンダイ)