「走れ!」偵察に来た王監督は西武の選手に声を張り上げた
本来、監督は戦況から一歩引いて試合を見る立場にある。次、さらにその次と先を読む。作戦を立て用兵を考える。それがまるで自分のチームが試合をしているかのように、手に汗を握り、一喜一憂する王監督。記者席がグラウンドレベルにあったため、自軍のベンチにいると錯覚したのだろうか。
これだけのめり込める野球への熱い思いが、選手として前人未踏の通算868本塁打を打たせたのだと感じた。と同時に、果たしてこれで西武に勝てるのか、と心配になった。
結局、日本シリーズは森監督率いる西武が4勝2敗で巨人に勝ち、日本一に輝いた。今はセとパのチームがシーズン中に対戦する交流戦が行われ、相手チームのデータ収集、分析能力も向上した。偵察の光景はすっかり見られなくなってしまったが、日本シリーズになると王監督の姿を思い出す。
▽富岡二郎=スポーツジャーナリスト。1949年生まれ。東京都出身。雑誌記者を経て新聞社でスポーツ、特にプロ野球を担当。