大谷翔平メジャー球宴初「二刀流」決定の裏で錯綜する思惑と計算
投打同時選出の波紋…二刀流の実現には障害が
日本時間7月14日の球宴(米コロラド州デンバー)のDH部門にファン投票で選出されている大谷翔平(27=エンゼルス)が、選手間投票の先発投手部門でも選ばれた。しかも、同6日のレッドソックス戦の試合前の会見でエンゼルスのマドン監督が、球宴でア・リーグを指揮するレイズのキャッシュ監督との話し合いで、大谷の投手起用を明言されたことを明かした。
投打での起用となればメジャー史上初の快挙だが、米メディアからは「ルールを変えろ!」との声も上がっている。球宴で打って投げての二刀流を実現するには、障害があるからだ。
ファン投票で選出された野手は、当該部門のスタメン出場が基本。つまり大谷はDHで先発するが、その大谷がマウンドに上がった瞬間、ア・リーグのDHは使えなくなる。そうなるとDH専門や打席に立ってナンボの選手の出番は代打に限定されてしまうのだ。
「2番・投手」で先発出場した場合、ア・リーグは最初からDHを使えず、打つことが専門の選手はいよいよ出番が限られることになる。
エンゼルスでは最初からDHを潰しても、波風は立たなかった。大谷の降板後に投げる投手は打席に立たなければならないし、打順が回るたびに代打を送るあまり野手が足りなくなるケースもあった。実際には内部で波風が立っているのかもしれないが、それが表面化したり、問題視されたりするようなことはなかった。大谷が投打で抜けた存在だからだ。
しかし、各球団のスター選手が出場する球宴は事情が異なる。大谷が二刀流を実践すれば、他のスター選手が割を食うことになる。ひとりの選手が球宴で打って投げるのはメジャー初。偉業には違いないが、極端な言い方をすれば、大谷ひとりのための球宴になりかねない。現行のルールを変えない限り、投打同時出場の波紋は生じるのだ。
マドン監督は「登板することは決まったが、どういう形になるのか結論は出ていない」と説明。大谷は球宴前日のホームラン競争にも出場するため、大谷本人の体調などを考慮し「最善の形を考えていく」と話したが……。
HRダービー賞金1億円と引き換えに背負うリスク
それでも球宴の二刀流実現に追い風は吹いている。ア・リーグ首脳陣の存在だ。
4日付のタンパベイ・タイムズ(電子版)によれば、ア・リーグの指揮を執るレイズ・キャッシュ監督は5日までにコーチとしてインディアンスのフランコーナ監督を指名。フランコーナ監督はキャッシュ監督が現役時代、レッドソックスでプレーしていた当時の指揮官だ。同時期のレ軍には松坂、岡島も所属しており、日本人選手に馴染みのあるボスとして知られる。
2度(2013、16年)の最優秀監督賞を受賞しているフランコーナ監督は外野手出身ながら、大谷を打者以上に投手として高く評価。これまで対戦した際には「160キロ近い剛球は魅力だが、調子が良くない時でも悪いなりの投球ができる。常に相手打者に向かう姿勢が好きだね」と投手としての能力の高さを口にしている。
大谷が18年に渡米した当初、二刀流について懐疑的な見方も少なくなかった。が、フランコーナ監督は「これまでルース以外、誰もやろうとしなかったことにチャレンジしようとしている。制限を設けずにやらせるべきだ」と、敵将ながらエ軍の二刀流起用に理解を示していた。
すでにエ軍のマドン監督は球宴での二刀流出場に関して「ショウヘイを最大限に生かそうとするのは正しいことだ」と話しているが、フランコーナ監督の後押しを受けて投打の二刀流で起用されそうな雲行きだ。
オールスター前夜祭でド派手な花火を打ち上げれば、一晩にして大金を手にできる。
大谷が出場を表明しているホームランダービー優勝者には100万ドル(約1億1100万円)の高額賞金が用意されているからだ。
日本の球宴でも本塁打競争が行われるが、優勝賞金は100万円。MLBとは約100倍の差がある。
高額賞金を得るためには、その分、過酷な戦いも強いられる。本塁打競争は出場選手8人によるトーナメント方式で実施され、1人につき各ラウンドとも4分の持ち時間を与えられる。プレー中の休憩は準決勝までは45秒、決勝では45秒、30秒と2度与えられる。長距離砲に有利なルールも採用され、440フィート(約134メートル)以上の本塁打2本で30秒のボーナス時間が加算される。本塁打数が並んだ場合は1分間のタイブレークに突入し、それでも決着がつかなければ、勝者が決まるまで3スイングずつ行う。肉体への負担は計り知れず、決勝まで残る選手は毎回、肩で息をするほど。前半戦でそれなりの結果を残した選手が、ホームランダービーで調子を崩して後半戦に失速するケースも少なくない。
大谷は日本時間5日現在、メジャートップの31本塁打。リスク覚悟で参戦することになる。