セ・パ優勝争いを混沌とさせる東京五輪後遺症…巨人、オリ、ソフトが抱える不安
セは3強、パは4強に絞られた
「私自身の用兵ミス」
巨人の原監督がこう言って頭を下げた。
2連敗で迎えた5日の阪神との首位攻防第3ラウンド。六回表を終えて6―0と試合をリードすると、その裏の守備から大黒柱の坂本勇人(32)をベンチに下げた。
「結果的に勇人のカバーをできなかった。読み切れなかった」
そう指揮官が反省の弁を続けたように、代わって遊撃に入った若林、広岡が相次いで失策。いずれも失点につながり、6点差を追いつかれた。
■「慎重に使わざるを得ない」
評論家の高橋善正氏がこう言う。
「坂本の交代によって試合の流れが変わってしまったのは事実。ベンチが相手にスキを与えてしまったわけですが、致し方ない面はある。今年12月で33歳になる坂本はここ数年、明らかに下半身の故障が増えた。以前から腰に爆弾も抱えており、フル出場というわけにはいかなくなっています。大きな故障を避けるためにも、原監督も試合展開によって休養を設けるなど、慎重に起用せざるを得ませんから。そういう中で今季は東京五輪もあった。野手最年長選手としてチームリーダー役を担い、決勝までの全5試合にフル出場。金メダルの期待を背負い、心身に負担がかかったであろうだけになおさらです。五輪後遺症とも言える事態にベンチがどう対処していくのか。坂本にバックアップが必要なら、守備力重視で固定するべきだと思う。5日の試合でミスをした若林のように、遊撃から一塁、一塁から外野という起用では、選手も落ち着いてゲームに集中できません」
五輪後に再開されたシーズン後半戦、坂本は20試合で打率.283、2本塁打、3打点(以下、数字は6日現在)。好機に凡退、というシーンが目立つ。巨人のチーム打率はリーグ5位の.247。打線のつながりを欠く中で、「坂本や打率.256と不振が続く丸らの復調が今後の優勝争いの鍵を握る」(高橋氏)のは間違いない。
512試合連続出場の“鉄人”吉田正尚が…
「五輪の後遺症かどうかはともかく、パ・リーグではペナント争いを牽引してきたオリックスにも問題が生じました」とは、評論家の山崎裕之氏だ。
東京五輪でも通算.350と活躍し、金メダルに貢献した吉田正尚(28)が3日の試合で左太ももを痛め、筋損傷の診断で5日に登録抹消されたのである。
「512試合連続出場を続けていた頑健な選手だけに、チームにとってはまさかの事態です。ここまで打率.338とパの首位打者で、リーグ2位の69打点、同4位タイの20本塁打、得点圏打率はトップの.393。つまり、率が残せて、長打もあり、そのうえ勝負強さも兼ね備えた打者の離脱は、それだけで大きな痛手であるのはもちろん、リーグ1位タイのチーム打率.252、同2位の422得点をマークする打線全体に影響します。経験の浅い4番の杉本が好成績(打率.307、23本塁打、67打点)を残しているのも、その前の3番を打つ吉田正に相手投手が相当な神経を使っているという側面も大きいですから。攻撃力がガクンと落ちる可能性が高く、山本由伸(リーグトップの12勝、防御率1.61)と宮城大弥(同2位の11勝、1.99)を中心とした投手力でしのいでいくしかない。この2本柱をどう配置し、どのチームに当てていくか。ベンチの戦略がより重要になってきます」
■甲斐が吐露「五輪の重圧で頭痛と吐き気が…」
坂本、吉田正と同じく正捕手として東京五輪に出場したソフトバンクの甲斐拓也(28)は、金メダル獲得後の日刊ゲンダイの取材にこう言っていた。
「ここまで試合で緊張するんだ……と思うくらいプレッシャーを感じました。夜もなかなか寝つけず、特にひどかったのは決勝戦の試合前練習が終わった直後。緊張からなのか、頭が痛くなって、吐き気までする。こんなのは初めてでしたよ」
何度も出場している日本シリーズでさえ、「五輪の重圧とは比べものにならない」と吐露した。
その甲斐も5日のオリックス戦で今季チーム106試合目にして初のスタメン落ち。五輪後の後半戦で0割台と精彩を欠く正捕手に、工藤監督は「一番の心配はケガ。それが怖い。五輪の疲れも当然あると思う。精神的なところも。人の負担は体の疲れだけじゃないから」と説明した。
「パの優勝争いは、首位ロッテに4ゲーム差の4位につけるソフトバンクまでが可能性を残す。ソフトバンクはエースの千賀やモイネロ、守護神の森ら主力投手に故障者が出ながら、チーム防御率がリーグトップの3.20と奮闘しているのは、もちろん正捕手・甲斐の力でもある。甲斐を欠けば逆転優勝も見えてこず、工藤監督が慎重を期すのも当然です」(山崎氏)
混沌とするセ・パの優勝争い。2008年シーズンは、北京五輪で負傷した新井貴浩を欠いた阪神が巨人に13ゲーム差を逆転された。
オリンピックイヤーは何があっても不思議はない。