捕手・山下和彦さんの信念「厳しい内角攻めでオレが打席でぶつけられても構わん」
プロ1年目、1987年のオフのことだ。
私は捕手の山下和彦さんに誘われて食事に出掛けた。晩飯をごちそうになり、その後、飲みに連れて行ってもらった。
翌日は休み。遅くなったため、そのまま山下さんの自宅に泊めてもらうことになった。しばらくの間、いろいろな話をする中で、私は山下さんに水を向けた。
「投げやすいし、本当に助かるんですけど、あそこまで打者の内側に寄って構えなくても大丈夫ですよ」
山下さんは私をリードする際、内角球を多く使った。特にブーマーをはじめ、石嶺和彦さん、松永浩美さんら、一発で仕留める強打者の並ぶ阪急戦では、自分の体を打者のほぼ真後ろに寄せて内角の厳しいボールを要求した。
執拗に打者の内角を攻めると、制球ミスは死球につながる。同じ打者に何度もぶつければ、報復の対象になる。パ・リーグの投手は打席に立たないから、いきおい、内角を要求した捕手への投球が厳しくなる。私は執拗に内角を要求する山下さんが、打席で狙われることを心配したのだ。
「ミットだけでなく体ごと内側に寄って構えてもらえると、目標になって投げやすいんですが、自分も多少、自信が出てきましたし、きちんと内角に投げますから。むしろ山下さんがぶつけられたりしないか心配なんです……」
すると山下さんは「いや、あそこ(阪急戦)は絶対、投げミスしたらアカンとこや。長打の多いチームやから」と、クビを振ってこう続けた。
「厳しい内角攻めによって、オレが打席で厳しい攻め方をされたとしても構わん。むしろ、体にかすったり、当たったりして、塁に出られるとすれば、ラッキーやないか」
体を張って投手をリードした
山下さんは打線で言うと下位。自分は守備を評価されているという意識が強く、体も人一倍、頑丈だったとはいえ、特に強打者の並ぶ阪急戦では、自分がぶつけられて塁に出られるのなら儲けものと、私に内角球を要求した。体を張ったリードをするのが山下さんだった。
この山下さんとウマが合うというか、極めて仲の良かったのが、ダブルヘッダー第1試合で追い上げの本塁打を含む3安打を放ち、転がりながら決勝のホームを踏んだ鈴木貴久さんだ。山下さんとは同じマンションに住んでいた。
ロッテとのダブルヘッダーの前年の1987年から4年連続20本塁打をマークした長打力、優勝のかかった大一番で結果を出す勝負強さはもちろん、右翼手として肩が強く、打球判断がいい。抜けたと思った打球を飛び込んで捕球したり、私は何度も助けられた。
北海道出身。スキーはインストラクターの資格を持っていたし、ゴルフもうまかった。あれは山下さんの自宅に泊まりにいったときのこと。同じマンションで階の異なる鈴木さんの自宅に挨拶をしに行ったか、迎えに行ったかは忘れたが、玄関のドアを開けて仰天した。=つづく