トイレで酔いつぶれ、野手のミスに平然…野茂英雄のそんな姿が周囲との距離を縮めた
周りを見渡すと、新人の野茂英雄の姿が見当たらない。いったい、どこへ行ったのか……。
1990年2月の日向キャンプでのことだ。近鉄投手陣は、最初の休日前夜に新人歓迎会をやるのが恒例で、場所は日向市内の居酒屋だった。
当時は先輩が酒をついだら飲めという時代。野茂は先輩から酒をつがれるたびに、グラスを空にしていた。酒が強いと聞いていたけれども、つがれるたびに飲み干していたらさすがに酔う。ちょっと飲ませ過ぎかもしれないと思ったら、いつの間にか姿が見えない。聞けばトイレで酔いつぶれ、倒れていたという。
野茂は自分で殻をつくるというか、あえて周囲と距離を取りたがるような部分があった。話していないことまでメディアに報じられて神経質になっていたのか、あるいはいろいろとしゃべり過ぎて誤解を生みたくないという思いがあったのか。いずれにせよ投手陣の中でも他人行儀なところがあった。
それだけに先輩の勧める酒を、「もう、いいです」などと断っていれば周囲との距離は縮まらなかったと思う。けれども、つがれるままにグラスを空け、飲み過ぎるくらい飲んだ挙げ句にトイレで酔いつぶれた。そんな野茂の姿に投手陣が、親しみを覚えたのは事実だ。