スポーツジャーナリスト谷口源太郎氏「五輪とその周辺はブルシット・ジョブの巣窟です」
弟の資金力を武器につくり上げた虚像
──高橋元理事に関しては「スポーツ界のドン」とか「五輪の黒幕」とかさまざまな異名がある。スポーツ界の表も裏も知るキーマンであることは確かなのでしょうが、実態がわからないところもあります。
そうなんです。実像が伝わっていない。高橋元理事がどうやって古巣の電通、スポーツ界で台頭したのか。忘れてはならないのが、弟の存在です。
──バブル期に不動産業の「イ・アイ・イ・インターナショナル」の代表として、ホテル・リゾート開発を手掛けた高橋治則氏ですね。
最盛期にはその企業グループ全体の総資産が1兆円を超えたといわれた。高橋元理事はその弟の資金力をバックに電通でのし上がり、スポーツ界での人脈づくりに利用した。広告代理店の一社員であるにもかかわらず、弟のプライベートジェット機を自由に使ってFIFA(国際サッカー連盟)や国際陸上連盟の幹部らを接待し、スポーツVIPとの関係を築いたわけです。電通では一介の社員時代から運転手付きの高級外車で通勤していたという話を関係者から聞いたことがありますが、弟の財力を武器に自らの自己顕示欲を満たしつつ、周囲を畏怖させて「大立者」「ドン」という虚像をつくり上げた。「ブルシット・ジョブ」を広げていったわけです。
──ブルシット・ジョブとは?
米国の文化人類学者、デヴィッド・グレーバーの造語で、和訳すれば「クソどうでもいい仕事」。つまり、本来はなくてもいい仕事ということになる。広告代理店はその象徴的な業種でしょう。ブルシット・ジョブの出現は1980年代に米国のレーガン元大統領、英国のサッチャー元首相、日本の中曽根康弘元首相らが加速させた新自由主義による市場原理や民間活力の導入などと時期を同じくし、1984年のロス大会から商業化された五輪もその流れの中にある。
──そうした時代背景の中、電通が日本における五輪の利権をほぼ独占するようになった。
電通は東京大会でもスポンサーから3700億円もの協賛金をかき集めて大会を主導、150人以上もの社員を組織委員会に出向させて中核となるマーケティング局をはじめ運営全体を牛耳った。東京五輪の開催経費は当初予定の7300億円から1兆4000億円にまで膨れ上がりました。経費が膨大になった裏には、電通がつくり出した多くのブルシット・ジョブにかなりのカネがバラまかれたのではないでしょうか。
──経費の話で言えば、高橋元理事には招致段階での活動費の疑惑も残っている。招致委員会から高橋元理事のコンサルタント会社「コモンズ」に820万ドル(当時のレートで約9億円)もの大金が振り込まれ、それをロビー活動に使っていたとされる問題です。そもそもコンサルタントというのが、まさに……。
ブルシット・ジョブですよね。9億円ものカネをどのように使ったのか、明らかにして欲しいものです。本当にロビー活動に使ったかどうかも判然としないわけですから。東京は2016年大会にも立候補しましたが、当時の招致関係者に聞いたところによれば、あのとき招致委員会は150億円の活動費を、海外を含めた30以上の得体の知れないコンサルタントと称する人、組織にバラまいたといいます。しかし、その結果、ブラジルのリオデジャネイロに敗れた。
──150億円も、30以上のコンサルもまったく意味はなかった。
それで、2020年大会招致については、竹田恒和招致委理事長らは世界のスポーツ界にパイプを持つ高橋元理事を頼るようになった。いずれにしろ、招致段階から莫大な金がかかるわけですから、マネーファーストに徹する五輪、IOC(国際オリンピック委員会)そのものがブルシット・ジョブをつくり上げ、コンサルタントの跳梁跋扈を生み出しているといえます。五輪とその周辺はブルシット・ジョブの巣窟ですよ。