今さら聞けない「スイーパー」って何? エンゼルス大谷翔平が繰り出す“魔球”を徹底解剖
打者を観察して起動変更
巨人でバッテリーコーチなどを務めた秦真司氏(野球解説者)もこう見る。
「私が筑波大の大学院でお世話になった動作解析の第一人者・川村卓先生(准教授、硬式野球部監督)によれば、最も肩肘に負担がかかる球種は、全力で投げた直球。次にフォークやスプリット系、その次がスライダー、カットボール、ツーシーム系の変化球。ここにスイーパーも入ります。昨年はスプリットが多かった印象ですが、むしろスイーパーを投げて負担を減らしているといえます。日本の球よりメジャー球の方が縫い目が高いので、大きな変化をつけやすいのです」
大谷のスイーパーが「魔球」と称される理由は、「腕の振りの速さとリンクしている」と秦氏がこう続ける。
「通常、変化球を投げる時は腕の振りが緩みます。変わらない投手は、古くはスライダーが代名詞だった伊藤智仁(ヤクルト)、杉内俊哉(ソフトバンクなど)くらいで、なかなか難しい。大谷も全く緩まない。それと、真横に滑るものだけでなく、縦気味のものも投げていて、曲がりの角度を調節している。WBC決勝で、勝負球にスイーパーを選択したのは、トラウトのスイング軌道が、アッパー気味だから。縦に落ちる軌道の変化球だと、トラウトのスイングに合ってしまうリスクがあった。大谷はまるで捕手のように打者を観察し、腕の振り方を変えながら、スイーパーの軌道も変えているのがクレバーなところです」
■狙われ始め5被本塁打
今季大谷が許した8本塁打中、5本がスイーパーだ。逆にこの魔球は、どう攻略すればいいのか。
「全投球の中でスイーパーが占める割合が約半数に達する試合がある。これでは狙われます。投げた瞬間、右打者の体に向かってくるスイーパーが曲がり切った後、甘い球になっている。打者側からすれば、これを逃げずに踏み込めるかがカギ。今の大谷は、抑えるのも打たれるのもスイーパー。依存し過ぎている感は否めません」(中尾氏)
実際、かつての決め球だったスプリットの1試合での割合は、21年が18.1%、昨季が11.9%、今季が7.4%と年々減少。一方でスイーパーの割合は、21年が21.9%、昨季が37.4%、今季はここまで43%と増加の一途だ。来たるべきFAに向け、「右腕への負担の大きいスプリットを減らして体力を温存している」と指摘する米メディアもある。変化が大きいのにリスクが少ないのも「魔球」たるゆえんかもしれない。