元阪急投手・足立光宏「騒げ騒げ、もっと騒げ。たかが野球じゃないか」
■宿敵巨人との日本シリーズで1死満塁のピンチ
ところが、粘る巨人はここから3連勝して逆に王手をかける。特に第6戦は五回表が終わって7対0と阪急が大量リードしていたにもかかわらず、そこから徐々に追い上げられ同点に。結果的には延長十回にサヨナラで巨人が勝つという、阪急にとっては最悪の負け方をしただけに、流れは完全に巨人に向かったといってもよかった。
泣いても笑ってもこれで決まる後楽園球場での第7戦。阪急は足立が先発した。試合は六回裏、巨人が2対1と勝ち越して、なおも1死満塁と追加点のチャンス。巨人ファンで埋め尽くされたスタンドからは割れんばかりの大歓声。チームの大ピンチに足立を励まそうと野手がマウンドに集まってくる。すると、誰に向かってということもなく、足立がつぶやいた。
「騒げ騒げ、もっと騒げ。たかが野球じゃないか。負けたって命まで取られるわけじゃない」
このピンチに足立は冷静だった。打席に入った淡口憲治をピッチャーゴロ併殺打に打ち取ると直後の七回、阪急は森本潔の2点本塁打で逆転。足立が最後まで投げ切って阪急がついに打倒巨人を果たしたのだった。 =おわり
(ライター・清水一利)