「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎著

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 小さな波紋は、コンピューターのシステム管理者が妻に逃げられたことから始まった。ショックに陥った管理者は思わず机を蹴飛ばし、その勢いで棚が倒れてハードディスクが破損。驚いた後輩社員が手にしていた缶コーヒーをバックアップの入ったテープ媒体にこぼしてしまう。そして失われたデータを補うために、後輩社員は街頭アンケートをするのだが、そこである女性と知り合う――。

 何げない男女の出会いを描いたかに見える冒頭の「アイネクライネ」だが、ここにはさまざまな伏線が仕掛けられており、続く「ライトヘビー」ではその伏線のひとつを膨らませながら新たな伏線が仕組まれ、そして次には……という具合に、最後の「ナハトムジーク」に至る6つの物語が複雑に絡まり合いながらひとつにつながっていく。

 小さな奇跡がきっかけとなって思わぬ人々が関係づけられていき、そこにまた小さな奇跡が生まれるという、著者には珍しく、恋愛を核とした連作短編集。軽妙な語り口、洒落た警句、張り巡らされた伏線と、伊坂作品のエッセンスもたっぷり。

(幻冬舎 1400円)

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