「アイネクライネナハトムジーク」伊坂幸太郎著

公開日: 更新日:

 小さな波紋は、コンピューターのシステム管理者が妻に逃げられたことから始まった。ショックに陥った管理者は思わず机を蹴飛ばし、その勢いで棚が倒れてハードディスクが破損。驚いた後輩社員が手にしていた缶コーヒーをバックアップの入ったテープ媒体にこぼしてしまう。そして失われたデータを補うために、後輩社員は街頭アンケートをするのだが、そこである女性と知り合う――。

 何げない男女の出会いを描いたかに見える冒頭の「アイネクライネ」だが、ここにはさまざまな伏線が仕掛けられており、続く「ライトヘビー」ではその伏線のひとつを膨らませながら新たな伏線が仕組まれ、そして次には……という具合に、最後の「ナハトムジーク」に至る6つの物語が複雑に絡まり合いながらひとつにつながっていく。

 小さな奇跡がきっかけとなって思わぬ人々が関係づけられていき、そこにまた小さな奇跡が生まれるという、著者には珍しく、恋愛を核とした連作短編集。軽妙な語り口、洒落た警句、張り巡らされた伏線と、伊坂作品のエッセンスもたっぷり。

(幻冬舎 1400円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…