抑制の効いたしゃれたデザイン
さて、2色刷りのストイックなカバーから、外見上の要件とは別の必然性を感じる。仮フランス装。表紙の天地・小口の三方を折り込みのり付け、見返しはなし。一見普通のソフトカバーだが、三方に3ミリの「チリ」がある。親指の引っかかりが心地よい。主に文芸物に使われる。軽妙洒脱な仕上がりに憧れる著者や編集者も多い。一方、難点も。仮フランス装に対応している製本所が少ない。そして何より費用がかさむ。予算の中で出来る加工/技術を選び、最終イメージを決定するのもデザイナーの才覚のひとつ。資材の単価を抑えてでも、この製本を実現したい、装丁者のそんな思いが「犬の紅いシルエット」から伝わってくる。(シンコーミュージック・エンタテイメント 2300円+税)
◇みやぎ・あずさ 工作舎アートディレクター。1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。