歴史的な詩集を完全復刻
「小さなユリと」黒田三郎著
帯に「父と娘のささやかな日々。1960年に昭森社より刊行された、歴史的な詩集を完全復刻」とある。
戦中派の詩人・黒田三郎。自身が結核で入退院を繰り返すうち、妻も罹患し入院。突如、父子家庭となる。年端のゆかぬ幼稚園児の娘・ユリとの、ありふれているけれど、取り換えのきかない日常が切り取られている……。ただし、一筋縄でいかないのは、黒田が無類の酒好きで酒癖も悪く、一杯やりながら娘を寝かしつけたあと、さらにアルコールを求めて飲み屋にむかう「ダメオヤジ」であること。痛いほど分かっている「ダメっぷり」と、可愛くてたまらない娘への思いが、訥々と語られる。詩人は腐るでも苛立つでもなく、淡々と事実をつづる。読者もつい、ほだされ共感。なぜだろう、俳優・豊川悦司を思い浮かべる。
さて、ほぼ半世紀ぶりの復刻である。どこまで初版に「寄せるか」。目標が明確な分、細部への心配りにも力が入る。正寸より天地が12ミリ短い、四六判変型、ハードカバー、角背。「完全復刻」を謳うだけあって、初版当時はなかったバーコードは帯に。幼児期の娘が描いた、ほほえましくも味のある父の顔が、カバーと表紙に配置される。共にOKミューズコットン(=用紙)に4色印刷。一見、同じデザイン。だが、紙の色が異なる。カバーは「やまぶき」、表紙は「しろ」。同一データの使い回しは不可能だ。