家族の崩壊と愛情が描かれている極上ミステリー
「声」アーナルデュル・インドリダソン、柳沢由実子訳
アイスランドは、国土のほとんどが氷河で覆われている人口32万人の小国だ。小国であるにもかかわらず、豊かな経済と高い文化を誇っている。アーナルデュル・インドリダソンは、アイスランドが生んだ国際的に著名なミステリー作家だ。
舞台はクリスマス時期のレイキャビク(アイスランドの首都)だ。シティーホテルの地下室で、ドアマンのグドロイグルが殺された。地味で誰も関心を払わない男だが、子ども好きで、毎年クリスマスにはサンタクロースに扮していた。殺されたときもサンタクロース姿だった。
殺人担当の刑事エーレンデュルは、グドロイグルの過去を徹底的に調べる。そこで明らかになったのは、この男がかつて著名なボーイソプラノ歌手でレコードを2枚出した。しかし、声変わりによりチャンスを逸し、その後は転落の人生を歩んでいったという事実だった。父親の息子にかける過剰な期待、それに対する息子の反発と暴力、家庭崩壊、姉と弟の絆など人間のドラマをインドリダソンは見事な筆致で描いていく。同時にそれが、家庭が崩壊し娘が麻薬依存になっているエーレンデュルの状況と重なる。