家族の崩壊と愛情が描かれている極上ミステリー
国際的なネットワークを持つイギリス人のレコード収集家がグドロイグルに接触している。ボーイソプラノのレコード収集家の間では、グドロイグルのレコードは希少価値があり高値が付いているからだ。いったい誰がどのような動機で、社会の片隅で生きている忘れ去られた男を殺したのか。ミステリー小説としても、手に汗を握る内容になっている。「声」は、〈父と娘はホテルを出た。エーレンデュルはその美しい賛美歌をグドロイグルのソプラノといっしょに心の中で歌い、ふたたび望郷の思いに深く引き込まれた。/おお、父よ、この短い人生にわずかでも光を与えたまえ……。〉という言葉で結ばれている。
この作品で描かれる家族のほとんどが崩壊している。しかし、いくら憎み合っても、家族の愛情は最後まで残るのだということが行間から伝わってくる。インドリダソンの小説が、ヨーロッパで広く受け入れられている理由は、家族の絆に人間救済の可能性があることを伝えているからだ。★★★(選者・佐藤優)