「人生最後のご馳走」青山ゆみこ著
高級な料理よりもちょっと懐かしいような安くてうまいものが好きという竹内三郎さん(70歳、直腸がん)は、シンプルなジャガイモだけのコロッケをリクエスト。何を食べたいかたずねられて、25歳くらいのときによく食べていたコロッケ定食を突然、思い出したのだという。添えられたイタリアンスパゲティは、昔、喫茶店で働いていたときに覚えた味だ。
その他、6歳のときに亡くなった魚屋だった父親の影響か、焼き肉屋を営んでいたのに魚が好きだという松村ミヨ子さん(80歳、大腸がん)がリクエストしたサンマの塩焼きや、冷蔵庫に何もない日の定番だったと福井朝子さん(84歳、すい臓がん)がリクエストしたお好み焼き。患者14人と、支える家族や医療スタッフにも取材。それぞれのメニューにまつわるエピソードから、各人が家族と過ごした時間や歩んできた日々が浮かび上がってくる。
ステーキのフルコースやお寿司などのリクエストもあるのだが、驚くことに、リクエスト食は高額の入院費を払った人のための特別なサービスではなく、厚生労働省の食事療養費の制度内で実施され、超過した食材費は病院が負担しているのだという。さらに大人用15床のうち8室は個室料が無料で一般の病棟と同様の自己負担で済むそうだ。