ストーカーがエスカレートし信頼と愛情を考えさせられる一冊

公開日: 更新日:

「ウォーク・イン・クローゼット」綿矢りさ著 講談社 2015年10月

 本書には、「いなか、の、すとーかー」と「ウォーク・イン・クローゼット」の2作が収録されている。いずれも深い人間洞察に裏付けられた面白い作品だ。

「いなか、の、すとーか」の主人公・石居透は、新進気鋭の陶芸家だ。強い上昇志向を持っているが、それを隠す知恵もある。東京の大学で陶芸を学んだが、そこそこ名が知れるようになると、あえて故郷の小椚にもどって実家の近くに工房を造った。テレビ番組で石居の生き方が肯定的に紹介される。周囲から嫉妬を受けるが、それをかわす知恵はついている。ただし、問題は中年女性のストーカーの砂原だ。ある日、工房に戻ると砂原がろくろを回していた。

〈「この前のテレビ越しに私にくださったメッセージの、真意を教えてくださいませんか」/淡々と冷静そうでいながら、おかしな内容を早口でしゃべる女、たしかに覚えがある。ああ、田舎に帰ってから、こいつの被害が止んでいたのに。〉

 評者もこのタイプのストーカー的な読者に煩わされたことがあるので、この行を読んだときに背筋が寒くなった。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭