「わかれ」瀬戸内寂聴著
御年93歳の著者は、骨折や病気でしばらく療養していたが、今年の4月から法話を再開、意気軒高な姿を見せている。
「命ある限り小説を書く」という言葉通り、昨年の「死に支度」に続く新作の短編小説集。
表題作は、91歳の女性画家と42歳年下のカメラマンとの交情を描いたもの。肉体関係こそないが、2人の間には明らかにエロチックな感情が流れている。そんな感情を互いに秘めながら、カメラマンは危険地帯への取材のために画家に別れを告げる。彼女にとって男から別れを持ち出されたのは、それが初めてだった。
一方、冒頭の「山姥」では、四国の小さな町で人付き合いを避けて暮らす老婆と死に場所を求めて町にやって来た男との奇妙な出会いと別れが描かれる。続く「約束」は亡き吉行淳之介の思い出がつづられ、武田泰淳(「紹興」)や重信房子(「面会」)なども登場する。長い人生の中で出会った、家族、恋人、友人たちを闊達自在にフィクションとノンフィクションのあわいに溶かし込んでいく。全9編、いずれも艶々しさに満ちているのはさすが。